Detail

ある国の図書館を舞台に、2人の文通を読み解き、彼女たちの運命を辿りましょう。

貴方の観測によって、物語の結末は揺れ動きます。

表面上のやり取りをなぞることも。
真意を汲み取ることも。
途中で投げ出すことすらも。

全て、彼女たちの運命になりますから。

Guide

ここでは、彼女らが記した謎解きの答えを示しましょう。

この物語には"僕"と"君"の2人の人物が登場します。
2人は次の手紙の場所を謎解きによって指定することで、他人に悟られずやり取りをしていたようです。

手紙を開封したタイミングで2人の視点が切り替わります。
初めは"君"の視点から。

忘れ物を見つけた"君"は手紙を置いて去ったようです。

Letter1

"君"からの最初の手紙はそのままの意味で、ソファの背もたれの裏を要求しています。

手紙の本文がどういう意図で書かれたのかについては、後で彼女の推測を語ってもらうことにします。

Letter2

"僕"からの手紙の指示は、ソファの裏手にあるもの、つまり階段に要求しています。

どうやら"僕"は言葉遊びが好きなようですね。

Letter3

次の手紙は、負イオン(=フイオン)に1本線を足したもの、ライオンの像に張り付けることを要求しています。

Letter4

次の手紙は、まるで意趣返し。

前の手紙の答えであるライオンから、線(=ライン)を引いた(⇔足した)、オ(尾)の先を要求しています。

Letter5

風林火山、山紫水明、明鏡止水を繋いだ四字熟語のしりとりから、曜日に関する部分が抜けています。

次の手紙は、そのうち使われていない土の上を要求しています。

Letter6

前の手紙の答えである土の字がマッチで作られています。
2画目途中のマッチを2画目の始点から垂直に置いて、横から見ると41の数字が出来上がります。

Letter7

次の手紙の指示は、uoodsを回転させてできるspoonと置き時計の中間を要求しています。

よくよく本文を見てみると、それまでの手紙とはどこか違いますね。

Letter8

"君"がいる時間の日差しが当たる場所に鏡が置かれ、反射光が机上のティーポットで影を作ります。
次の手紙は、この黒いティーポットの注ぎ口を要求しています。

Stage9

これまでの手紙の位置を順に結ぶと、星形が出来上がります。

図書館の館内図から星形が示す場所、その本棚の中心を要求しています。

Letter10

これまでの言動から、"僕"として予想される人物、女王クリス(Chris)の名を金庫に入力することでクリアになります。

しかし、それで本当に良かったのでしょうか。

Letter7にあった違和感。
そこから導かれる運命は、きっと彼女が語ってくれることでしょう。

Story

※ワールド内のストーリーを包含するショートストーリーです。完全なネタバレになるのでご注意ください。

ある国の、寂れた図書館。

此処から始まるのは、彼女たちの物語。

その運命の1つを、彼女に語ってもらうことにしましょう。



閉館時間を過ぎ、静寂に包まれる図書館。
僕はこの場所がお気に入りだった。
もっとも、今や図書館を利用する人はほとんどいなくて、いつ来たって似たようなものだろうけどね。

「~♪」

そう思って油断して、鼻歌なんて歌いながら3階の本棚へ向かい、探し出した本を手に戻ってきたら。

「あっ」

持ってきた本を取り落としそうになって、慌てて持ち直す。
閉館時間はとっくに過ぎているのに、まだ人がいた。
平静を装って、気づかれていないかと観察してみると、その人はテーブルに突っ伏して、肩をゆっくり上下させている。

「起こすのは可哀想かな」

僕はその人に気が付かなかったことにした。
その方が、僕にとっても都合がいいから。
しかし、そう思ってはいても、人がいると思うと集中できない。
なんとなく気になって、ちらちらと視線を向けてしまう。

その居眠りしている、彼か彼女か。
顔は伏せているし、推測が難しい体格をしている。
こう素性が知れないと、余計に気になってしまうな。

結局、集中できないまま、その日は帰ってしまった。
その人はずっと眠っていたけど、泥棒という風体でもないので、そのままにしてきた。

翌朝、僕は指輪を置いてきたことに気が付いた。

言い訳をすると、僕は昨日、その指輪について調べるために図書館を訪れたのであり、文献の図と見比べるためには外さざるを得なかった。
ずっと起きない居眠りさんに気を取られて、忘れてしまったとしても、
まあ、許されないね。

朝一番、止まらない冷や汗を拭う間も惜しんで早足で図書館へ向かうと、そこに指輪は無く、代わりに一通の手紙が置かれていた。
取り乱すにはまだ早いと、震える手で開封する。

丁寧に綴られた文字からは、気遣いが感じられる。
その心配りが、僕に冷静さを取り戻させた。

手紙の本文では、宛先を貴族と明記することで牽制していて、さらに、指輪を忘れ物と言ってぼかしている。
第三者を警戒した書き方で、なかなか用心深い性格らしい。
それとも、指輪の価値に気づいているのかな。
だったら放っておけば、面倒ごとに巻き込まれずに済むものを。
優しいというか不器用というか。

指輪を返してほしいという気持ちもあるけど、それ以上にこの"君"のことが気になって、僕は返事を書いた。
忘れ物の内容を指輪と明記することで持ち主であることをアピールしつつ、遊びを込めて。
付き合ってくれるといいけど。

"君"に会えるかと思って、試しに夕方に図書館を訪れると、"君"の姿はなかったが、指定した場所に手紙があった。
"君"が慎重すぎるのか、僕が疑われているのか。
どうやら、この1回で素直に指輪を受け渡してくれる気はないらしい。

仮にも王家の象徴が刻まれた指輪に対して、雑に扱うような提案だったからだろう。
僕の態度を試すかのように、暗号の答えはライオンだった。
さすがに象徴の像に手紙を貼り付けるのはいかがなものかと思うけど、態度を一貫させるためには必要なことだ。
他でもない僕がすることだから、まあいいか。

そうすると、僕の身分にも気づいてしまうだろうか。
この図書館に頻繁に出入りできる人間で、そんな態度がとれるのは他にいないだろうから。

今度は夜、"君"を見つけた日と同じような時間に図書館へやってきた。
やはり君はいないけど、手紙は指定した場所にある。

思った通り、僕の身分を察したようで、堅苦しい文章で返ってきた。
その豹変は残念ではあったけど、露骨に媚びてくるよりはよっぽど良い。

「ふふっ」

そう思いつつ、暗号を解いたら、思わず笑ってしまった。
次の手紙は土の上って、僕に土いじりをさせようというのかな。
知らなかったと言い訳できるとはいえ、好き勝手してくれる。

俄然、僕は"君"に興味が湧いた。
実際に会ったら、"君"はどんな態度をとるんだろうか。
会ってみたい。
そう思って、僕はさっさと指輪の話を終わらせようと、簡単なパスワードでの受け渡しを要求した。

それから数日と経たないうちに、緊急事態が起きた。

長年親交を築いてきたはずの隣国から、宣戦布告の書状が届いたのだ。

「隕石の件では結構な額の援助を送ったというのに、この恩知らずめ」

なんて悪態をつかなければやってられないくらいには、僕は動転していたし、落ち着く暇がないくらいに立て込んでいた。
夜通し対応に追われ、疲れ切ったはずの僕の足は、不思議と寝室ではなく、図書館に向かっていた。
これからのことを考えたら、眠れそうにはなかったから。

"君"が置いていった返事は、随分な剣幕だった。
全く意図していないだろうけど、不安を忘れるには、これくらいの圧がちょうどいい。

手紙の内容は、あえて僕の名前がわからないと捲し立てているかのよう。
追記とのギャップがそれを際立たせている。
僕は"君"の素性に辿り着いているのに、寂しい反応じゃないか。

これまで色んな時間帯で図書館を訪れたけど、一度も再会しなかった。
"君"がここにいる時間は、朝でも夕方でもない夜でもないということだ。
城の図書館に出入りできる人間で、そんな生活習慣の人間はいない。
早朝から勤務して、昼に職務を終える兵士以外は。

半ば自慢げに返事を書いていると、"君"の手紙の違和感に気が付いた。
文章の区切りが悪い。
改行もない。
それが捲し立てるような雰囲気を作っていたのだけど、読みやすさを犠牲にするほどかな。

そうしてすぐ、僕は"君"の意図に気が付いた。
縦読みだ。
「2この仮面の間」と、気づいてみれば随分はっきり書いてある。
図書館にある2つの仮面と言えば、どちらも僕の指定した手紙の隠し場所の近くに落ちていたはずだ。
1つはライオンの尾の先に行くための踊り場。
もう1つは伝記の本棚近くの階段の手摺。
その中間というと、円柱状の本棚だろうか。

思った通り、2通目の手紙がそこにあった。
どうにも名前への誘導があからさますぎて、裏の意図があるのではないかと勘繰られているようだ。
この勘違いは、乗っかった方が面倒が少ないかな。
せっかくだから、上書きされてしまった僕の昔の名前を当ててもらうことにしようか。

さて、返事の書き直しだ。
ただの縦読みで終わらせるつもりは毛頭ない。
縦読みの内容を問題文として、ご所望のアナグラムも導入してあげる。
追記の文字でババ抜きをして、抜き出した文字を軽く並べ替えたら、「女王1にはさんだ」となるわけだ。
そして、解いた先の手紙には、僕の真の名前に至るためのヒントを書いておく。
記憶違いでなければ、"君"の頭、つまり、僕からの手紙の宛名の頭文字に共通する読みが、僕の名前になるはずだ。

さて、"君"は解けるかな。

来る戦に備え、女王としての役目を粗方終え、僕は再び図書館を訪れた。
"君"は返事をくれただろうか。

重い足取りで、階段を上る。

宣戦布告から今日まで、僕にとってはどこか他人事だった。
実際、僕が戦場に立つことはないし、実務的なことが回ってくることもない。
例えるなら、真剣にチェスをやっているような感覚。
命を懸けていると、口先で言うだけの真剣さだ。

けれど、今日最後に渡された小さい冊子。
目を通す必要はないと言われたそれは、この戦いに出陣する兵士の名簿だった。
この戦いで死ぬかもしれない、僕のせいで命を失うかもしれない人たちの名前が敷き詰められた、冥府の帳簿。
これに調印した僕は、およそ天国には辿り着けそうにない。

何より、その名簿に"君"の名前が含まれていると思うと、僕は吐き気を抑えられなかった。

手摺を頼りに、僕は階段を上り切った。
手紙を開くと、やっぱり、優しい"君"は僕を気遣った言葉を綴ってくれていた。
僕がこんな言葉をかけてもらうような人間じゃないってことは、これまでのやりとりでだってわかっているはずなのに。

ひねくれた性格で、"君"をからかったような態度ばかりとって、面倒な遊びに付き合わせて。
そして今度は、僕の命令で"君"を殺すかもしれないのに。

"君"だけは行かないでくれ、なんて、僕には死んでも言えないことで、本当は考えることすらダメなんだけど。
それでも、こんな手紙を貰ってしまったら、そう思わずにはいられないよ。

これが最後の手紙になるかもしれないことが悲しくて。
それと同じくらい、"君"が僕とのやり取りを楽しんでいてくれたことが嬉しくて。
僕は視界を滲ませながらペンを執った。

何が原因でこんなことになってしまったのか、僕にはわからない。
こうならないためにできることが、本当はあったのかもしれない。
今となっては、君に、ただ謝ることしかできないんだ。
それがとても悔しい。

でも、謝るだけじゃなくて、もっと伝えなきゃいけないことがある。
こんな僕に付き合ってくれて、気遣ってくれて、優しくしてくれた。
それが僕にとっては、本当に有難くて、嬉しいことだったんだよ。

だから、ありがとうって伝えたい。
君に会って、直接。

それから、もし本当に君が望んでくれるなら。

「友達に、なってほしいんだ」

僕が思っていることを素直に書いた。
僕の想いの丈が伝わるかどうか、わからないけど。
ただただ、今は君の無事だけを願って。

開戦からしばらくの月日が経った。
届いてくる報せによれば、ある1人の兵士の活躍で、戦況は好調らしい。

「それが"君"だったりして。なんてね」

そんなことを口走ってしまうくらいには、城は落ち着いていた。

「失礼します」
「どうぞ」

執務室の扉が叩かれ、入室を許すと、使用人が入ってくる。

「お茶を淹れて参りました」
「ありがとう」

給仕服を身にまとった、いつもと変わらない姿。
しかし、どこかいつもより所作がぎこちなく見える。

「疲れてるんじゃない? たまには休んでもいいんだよ」
「いえ」
「無理をする必要はないからね」

そう言って紅茶に口を付けた途端、僕はカップを取り落とした。
体が麻痺して、思うように動かない。
揺らぐ視界で、使用人の愛想笑いが、歪んで見えた。



ここで彼女の意識は一度途絶えてしまったようです。
この後、もう一度だけ彼女は自我を取り戻し、"君"に最期の手紙を遺すわけですが、そのお話はまたの機会に。